ニューヨーク恋物語
第7章 横浜編

赤レンガ倉庫からホテルに戻った二人はラウンジでお酒を飲んだ。
ランドマークタワーのラウンジからは港の灯りがきれいに見えた。

「こうしてあなたとブランデーを飲むのも今夜が最後ね。
 この一週間本当にありがとう。
 そして今日は私のためにこんな素敵な一日を・・・・・・」

そこまで言うと今日子は急に涙がこみ上げて来た。

「バカだな。今日子は本当に泣き虫なんだから」

大沢が帰国した日にも今日子はレジェンドの中で泣いた。
そして大沢に同じ台詞を言われた。

「私、一緒にニューヨークに行けなくてごめんなさい」

「わかっている。いつかその時が来るのを待っている」

大沢はどんな時でも冷静で、今日子に愛情を押し付けなかった。
それは大沢の愛の大きさだった。

「ねぇ・・ ニューヨークの夜景ってきれい?」

「マンハッタンの夜景を一度今日子に見せてやりたいと思うよ。
 エンパイア・ステート・ビルから見る夜景は世界一のパノラマで
 南北にのびる道はまるで地上の天の川のようなんだ。
 ブルックリン橋のたもとに立つと、なぜか横浜のベイブリッジを想う。
 僕には今日子との横浜での思い出が多すぎる」

「いつかニューヨークに行っていい?」

「ああ・・・。君をいつまでも待っている」


ほろ酔い加減で部屋に戻った。

今夜ここで最後の夜を迎えると思うと、二人は動揺した。
大沢は先にシャワーを浴びた。

今日子は部屋の窓からみなとみらいの夜景を見下ろしていた。
明日の夜には大沢はいない。
夢のような一週間がもうすぐ終わろうとしていた。

大沢が部屋に戻ると、今度は今日子がバスルームに入った。
今日子がシャワーを浴びる音がかすかに聞こえてくる
やがて今日子がバスルームから出てきた時のために
大沢は部屋の明かりをすべて消した。
部屋はいつ今日子が全裸になってもいいように空調が入れられ
カーテンが開かれた。
みなとみらいの灯りと月の光が注ぎ込んで来た。
大沢はじっと今日子を待った。

「今日子、今夜最後のお願いがある」

今日子が部屋に戻ると大沢はぎこちなく言った。

「残りのカメラのフィルムで、今日子の写真を撮らせてほしい」

今日子は初め意味がよくわからなかった。
大沢は今日子の全裸の写真を撮らせて欲しいというのだ。
いつもなら冗談ではぐらかす今日子だが今夜は素直に承諾した。

今日子はバスローブを脱ぐと、大沢の指示にしたがった。
長い黒髪を巻き上げると髪留めで留めた。
うなじにかかる後れ毛が今日子を一層色っぽくさせた。

夜景と月の光の中で、今日子の裸体はくっきりと浮かびあがった。

抜けるような白い肌、小さいけれど形の整った乳房。

くびれた腰から下腹部にかけてのなだらかな曲線。
大腿部から足のつま先まで、大沢が愛した今日子の裸体だった。
二人はいつになく無言だった。

「ありがとう。この写真大切にする」

撮り終わった大沢は今日子に心から礼を言った。
大沢は窓辺にいる今日子を抱き上げるとベットに運んだ。

「ニューヨークに帰ったら、私の写真に毎晩キスをして」

「わかった。毎晩キスの嵐だ。こんなふうにキスの嵐だ」

そう言うと大沢は今日子にキスをした。
大沢のキスはいつも優しかった。
けれど今夜の大沢は強く今日子の唇を吸ってきた。
別れを惜しむ二人は、最後にバリアフリーのセックスがしたかった。

大沢は今日子の乳房に顔を埋め

まるで赤ん坊のように繰り返し吸ってきた。
大沢の唇は乳房から下腹部へと下りて行き、股間で止まった。
大沢は今日子の股間に顔を伏せ、ピンクに息づく花びらにそっと触れた。

「今日子・・・君は美しい。 今日子・・・君は素晴らしい」

大沢の歓喜と感動の台詞は続いた。
大沢は半ばかすれた声で呪文のように繰り返した。
今日子は身をよじり、初めは恥じらいをみせていたが
次第に上体をそらし、今にも弾けそうな体を必死で繋ぎとめていた。
今日子の口から発する喘ぎの声は、今夜は切なく大沢の耳に響いた。

今日子は一刻も早く大沢と結ばれたいと願った。

けれど大沢は今日子の体のすべてを自分の中に記憶しておきたかった。
これから何ヶ月もこの体に触れられぬ切なさに
大沢はもう耐える自信がなかった。

「今日子・・・愛している。 今日子・・・愛している」

大沢は繰り返し同じ言葉を耳元でささやきながら唇を押し当てた。
二人は羞恥の心をかなぐり捨て、ひたすら求めあった。

「お願い・・・・・ 早く来て・・・」

今日子の哀願の声は次第に大きくなった。
大沢は生々しく息づいている今日子に未練を残しながら
今日子の花びらへ静かに侵入して行った。

何度果てかけて、何度とどまり、何度とどまって、果てかけたことか。
二人は歓喜の頂点でさまよい、悶えながら果てていった。
そして気だるさの中で、抱き合ったまま眠りについた。


どれくらい時間が経っただろう。

今日子はまどろみの中で、大沢の呼ぶ声を聞いた。

「今日子・・・。 今日子・・・」

「・・・・  ・・・・ ・・・・」

「今日子・・・。 朝陽が昇り始める」               

今日子は全身をシーツで覆ったまま大沢の横に立った。
そして窓から外を眺めた。

みなとみらいの観覧車が6時の時報を知らせていた。

昇り始めた朝陽を二人はゆっくり眺めながら別れの朝を迎えた。

BGM (Thank You)
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